2023年03月11日

弦が切れたら

レイ・チェンというバイオリニスト自身が、プロコフィエフの協奏曲の途中で弦が切れた瞬間の入った映像を配信している(@)。渡された楽器をこともなげに弾き続け、フレーズの合間に弦の包みをポケットから出して床に放る。彼はチャイコフスキーの協奏曲で弦の切れた場面も挙げている(A)。第一バイオリンのメンバーが楽器を後ろに回すとき小さくイヤイヤをしているのは替えの弦がないのだろうか。このときはソロの合間に、レイが替えの弦を2プルトのイン(2列目の内側)まで渡しに行く。その後のカデンツァでは、何度か頷いて、受け取った楽器の音色に満足しているというパフォーマンスを見せる。
タングルウッドの奇跡とよばれたミドリ・ゴトウの実際の様子(B)を見ると、コンサートマスターの方に近づいて楽器を交換して弾き、また切れたので交換し、渡された肩当てをフレーズのわずかな合間に付けて弾き続ける。醸し出す雰囲気に大人たちは終始圧倒されているようだ。後に何かのインタビューに答えて、「あの頃はまだ子供で、とにかく続きを弾かなくてはという一心でした。」と。そう、音楽は止まってくれない。
実際に目の前で弦のハプニングを見たことが何度かある。美術館のアトリウムで開かれたリサイタル、アンコールの後半で弦が切れ、楽器を持ったカントロフがピアニストを置いたまま去り、ガラス張りの向こうのエレベーターを上って行くのが見えた。飄々と戻ってきて同じ曲を始めから弾き直した。巨匠の演奏を1,5回?聴けてお得なのか。
ヤナーチェク弦楽四重奏団の来日演奏会では、アンコールが始まってすぐ第一バイオリンの弦が切れ、4人ともいったん退場して、再登場後に演奏を再開した。切れた人だけ退場ではダメなのかなあと思いながら、アンコールにはちょっと重いチャイコフスキーを聴いた。
アムステルダムコンセルトヘボウのチケットブースでは、当日券が買える。その日はアムステルダム放送楽団の公演で、ラフマニノフの交響的舞曲の第2楽章、コンサートマスターの後ろに座るオジさんの様子が怪しい。弓を譜面台に置き、ポケットに手をつっこんで取り出した袋を開け、弦をクルクル広げて楽器に付け、指板をはじきながら耳を近づけてペグを締めたあと、すぐに弾き始めた。合間に楽器を立てて弦に耳を近づけ、ペグをもう一度いじったが、あとはずっと弾き続けていた。周りの誰一人動じることもなく曲は続いて行く。淡々としたプロフェッショナルの姿だった。
1  https://youtu.be/686xoeQAVA4
2  https://youtu.be/fh59nvRA52M
3  https://youtu.be/4QkAWD0YnOk
アマチュアのビオラ弾き
posted by 八幡市民オーケストラ at 17:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記