2017年04月02日

マウスピース選び

 私は木工と刃物店の店員という二つの立場から刃物に関わっている。
 刃物の生命は第一に「切れ味」だ。むろん研ぎの如何によって左右されはするが、「鋼の硬さと粘り強さ」は大きな要素となる。ところが硬さや粘りは見た目で判るものではないので、多くのメーカーは「〇〇鋼を使用」などの情報を謳い文句にする。
 ところが鋼は鍛え方と熱処理次第で、硬くも柔らかくも、粘くも脆くもなる。ちょうど米を炊く際、コシヒカリであろうがササニシキであろうが、炊き方次第で硬くも柔らかくもなるのと同じで、作り方次第でどうにでもなる。したがって「〇〇鋼」なら必ずよく切れる、とは絶対に言えることではない。

 以前NHKで、あるメーカーが「うちの庖丁は〇〇鋼で一番よく切れる。この鋼はうちだけだ」という困ったことを言った。しばらくして「〇〇ブランドの庖丁をくれ、〇〇鋼のが一番切れるのだろ」というお客さんがみえた。ところが、その鋼は他のメーカーにもあるし、鋼種と切れ味に直接の関係はないのは先述の通り。その庖丁は悪い物ではないが一番いいというほどのものでもないことは、研いだ結果で確認できている。それでそのことを丁寧に説明したのだが、「でもテレビが、NHKがそう言っていた」と理解が得られなかった。「なら、NHKで買いなはれ」とまでは言わなかったが、思い込みに囚われてしまうと物の本当の姿を知る機会を失うのだなと思った。

 さてトランペットのマウスピース選びにも、世間にそういう情報があるようだ。ボア(スロート)の太いもののほうが太い音になるとか、大口径のを使いこなすのが上級者であるとか、そういう情報に囚われている人がいるらしい。
 しかし人はそれぞれ歯も唇も違う、また息の使い方も唇とのバランスも、何もかもが違う。マウスピースはそういう個人の特徴と、用途に合わせて選ぶべきものであって、いわば陸上選手が自分の足に合った靴を選ぶのと同じだ。大きい靴を履いているのが良い選手、というような馬鹿な話はない。
 自分にとって大き過ぎる(またはその逆の)ボアや口径はといったものは、望む結果が得られないだけでなく、練習をも無駄にするものでもある。むしろ悪い癖のもとにもなり得るものだ。
 楽器のカタログなどに書いてあることでも、意味のない情報であることが多い。「輝かしい音を出す」とあっても、人によっては響きが少なくなったりして逆にくすんだ音になることもある。結局は、実際に試さなければ本当のことは絶対にわからないということだろう。そういう文言は回り道をさせるだけで、百害あって一利なしといってよい。
 やはり自分の感覚や周りの耳を頼って試していく以外に、良いマウスピースを選ぶ方法はないと思う。

 近年は情報過剰といってよい社会であるが、刃物であれ楽器であれ、そういう情報に呑みこまれることなく素直な目で選べるようでありたいものだ、と私は考えている。さあ、後は練習だ。

Tp 山田潤
posted by 八幡市民オーケストラ at 00:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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