タングルウッドの奇跡とよばれたミドリ・ゴトウの実際の様子(B)を見ると、コンサートマスターの方に近づいて楽器を交換して弾き、また切れたので交換し、渡された肩当てをフレーズのわずかな合間に付けて弾き続ける。醸し出す雰囲気に大人たちは終始圧倒されているようだ。後に何かのインタビューに答えて、「あの頃はまだ子供で、とにかく続きを弾かなくてはという一心でした。」と。そう、音楽は止まってくれない。
実際に目の前で弦のハプニングを見たことが何度かある。美術館のアトリウムで開かれたリサイタル、アンコールの後半で弦が切れ、楽器を持ったカントロフがピアニストを置いたまま去り、ガラス張りの向こうのエレベーターを上って行くのが見えた。飄々と戻ってきて同じ曲を始めから弾き直した。巨匠の演奏を1,5回?聴けてお得なのか。
ヤナーチェク弦楽四重奏団の来日演奏会では、アンコールが始まってすぐ第一バイオリンの弦が切れ、4人ともいったん退場して、再登場後に演奏を再開した。切れた人だけ退場ではダメなのかなあと思いながら、アンコールにはちょっと重いチャイコフスキーを聴いた。
アムステルダムコンセルトヘボウのチケットブースでは、当日券が買える。その日はアムステルダム放送楽団の公演で、ラフマニノフの交響的舞曲の第2楽章、コンサートマスターの後ろに座るオジさんの様子が怪しい。弓を譜面台に置き、ポケットに手をつっこんで取り出した袋を開け、弦をクルクル広げて楽器に付け、指板をはじきながら耳を近づけてペグを締めたあと、すぐに弾き始めた。合間に楽器を立てて弦に耳を近づけ、ペグをもう一度いじったが、あとはずっと弾き続けていた。周りの誰一人動じることもなく曲は続いて行く。淡々としたプロフェッショナルの姿だった。
1 https://youtu.be/686xoeQAVA4
2 https://youtu.be/fh59nvRA52M
3 https://youtu.be/4QkAWD0YnOk
アマチュアのビオラ弾き